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オンジーシェクの「ř」 — 音として残った響き

  • lifesound
  • 4月10日
  • 読了時間: 4分

更新日:4月12日




「このCDは元々販売目的で制作したものではなく、記録のためのデモ音源です。ただ、あくまでラフな音源で、販売用音源のようなノイズカット等の処理は行っておりません。

そのため、ピアノ椅子の軋む音なども含まれておりますが、音楽の流れを止めないことを重要視したので、その分、音楽が生きている録音になっていると思います。」と山﨑さんからのご説明を頂いたCD。しかし、その中にはとても貴重な音源が収められています。

それは世界初録音の存在です。さらに演奏者が素晴らしい音楽を聴かせてくれています。


そこで世界初録音の曲について少々呟きます。


今回、山﨑千晶さんと杉林岳さんの共演で、フランティシェック・オンドジーチェク作曲《バルカローレ》を録音しました。自分なりに調べた範囲では、この曲の録音は見当たらず、おそらく今回が初めて音として残されたものになると思います。


世界的にも初ではないでしょうか?



ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲を聴いていると、ずっと気になっている音があります。チェコ語の「ř(ルジェ)」です。


この協奏曲は、当時の大ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムに献呈された曲ですが、結局、彼が演奏することはありませんでした。理由はいろいろ言われていますが、きちんと整ったドイツ的な美しさとは少し違う、この曲の自由な感じが合わなかったのかもしれません。


そこで初演を担ったのが、フランティシェック・オンジーチェクです。1883年、プラハでの初演は大成功だったそうです。彼はこの曲の中に、ちゃんと“チェコの音”を聴いていたんだと思います。


日本でチェコ音楽を広めた山﨑さんは、この名前を「オンジーシェク」と書きました。(フランティシェックも山﨑さんから教えていただきました。)

チェコを中心にヨーロッパで長く活動していたヴァイオリニストでもある方なので、この表記は単なる当て字ではありません。



     (画像出典:Wikimedia Commons / František Ondříček)



そもそも今回録音した《バルカローレ》の楽譜も、山﨑さんがチェコのオロモウツ(Olomouc)の市立図書館で手に入れてきたものです。ただ、山﨑さんご本人はこの街の名前を「オルモフ」と発音していました。一般的な表記とは少し違いますが、現地の響きに耳を慣らしていくと、むしろそのほうが自然に感じられてくるのが不思議です。

たとえば、私たちが「ドボルザーク」と呼んでいる名前も、チェコ語の発音で捉えると「ドヴォジャーク」に近くなる。「オンジーシェク」という響きも、同じ耳から生まれているのだと思います。


オンジーシェクの演奏は、いわゆる雰囲気で聴かせるタイプではありません。余計なことをせず、音を作りすぎず、楽譜にあるものをそのまましっかり鳴らす。でもそれが不思議と、しっかり歌って聴こえる。

あの独特の間や節回し――ボヘミアの語り口のようなものが、自然に立ち上がってくる感じです。

技巧的にも「パガニーニの再来」と言われた人ですが、まったく力んだ感じがありません。難しいことをやっているのに、それを感じさせない。その余裕が、そのまま音の美しさになっているように思います。

特に印象的なのがボウイングです。チェコ語の「ř」って、少しザラっとした摩擦と響きが一緒にある音ですが、彼の弓もまさにそんな感じで、スッと立ち上がるのに、ちゃんと芯が残る。

山﨑さんが書いた「オンジーシェク」という響き。語尾がスッと抜けるあの感じ、少し乾いた鋭さ。その中に、ドヴォジャークのゆっくりした楽章で出てくるような、深い音の気配がある気がします。

今回録音した《バルカローレ》にも、そういう感覚は確かにあります。音の出だしや消え際に、ほんの少しだけ引っかかるようなニュアンス。でもそれがあることで、ただ綺麗なだけじゃない、奥行きが生まれる。

これまで記録として残っていなかった音を、今回こうして形にできたことには、やはり意味があると思っています。

静かなところでこの曲を聴いていると、名前の奥にあった音――「オンジーシェク」という響きが、少しだけ見えてくる気がします。


山﨑さんの使用ヴァイオリンは、ボローニャのジョヴァンニ・トノーニ

杉林さんの使用ピアノはスタインウェイ&サンズ

 
 
 

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